相続放棄と管理義務の民法における具体的改正点

相続

従来の民法では、相続放棄をした相続人にも、財産の管理義務・管理責任が重くのしかかることが多く、トラブルの原因となっていました。

特に、空き家の管理問題や相続財産の維持費など、放棄したにもかかわらず負担が続く状況に多くの相続人が苦しんでいたのです。

このような状況を改善するために、民法は改正され、相続放棄後の管理義務が明確化されました。

そして2023年4月から施行された改正民法により

相続放棄をすれば、「現に占有している場合」以外はその管理義務は負わなくてよくなりました。

現に占有している場合」てなんやねん!

実務的に、相続放棄をする目的の一つとして、管理義務から逃れたいという部分があります。

ここでは改正された民法における相続放棄後の管理義務=保存義務について、相続放棄申請に携わった行政書士として、詳しく説明してみます。


相続放棄と管理義務の概要

相続放棄の基本概念

相続放棄は、相続人が被相続人の財産や負債を一切相続しないことを選択する手続きです。

民法第939条に基づき、相続放棄をすることで、相続人は被相続人の負債や義務から解放されます。

相続放棄は、家庭裁判所に対して所定の期間内に申述を行うことで成立します。

例えば、多額の借金を抱えた被相続人の財産を相続する場合、相続人が相続放棄を選択することで、借金の支払い義務から免れることができます。

相続放棄は、相続人が被相続人の財産や負債を引き継がない選択肢であり、家庭裁判所に申述することで法的に有効となります。


相続放棄の手続きの流れ


相続放棄は家庭裁判所に申述書を提出し、受理されることで成立します。

相続放棄の手続きは、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申述書を提出する必要があります。この期間内に行わないと、相続放棄は認められません。

手続きの流れとしては、相続人が家庭裁判所に申述書を提出し、家庭裁判所が内容を確認したうえで受理し、相続放棄の宣言が行われます。

相続放棄は、一定の期間内に家庭裁判所に適切な手続きを行うことで成立します。

相続放棄におけるについての民法改正

改正の必要性

民法改正は、相続放棄後の管理義務の負担軽減を目的として行われました。

相続放棄後も管理義務を負うことで、相続人が過度な負担を負う問題がありました。これを解消するために、法律が改正されました。

相続放棄をしても、空き家の管理責任を負わなければならないケースが多く、その負担が問題視されていました。

民法改正は、相続放棄後の管理義務を軽減し、相続人の負担を減らすことを目的としています。

法改正の経緯

法改正は、多くの相続人が管理義務の重さに悩まされている現状を改善するために行われました。

多くの相続放棄事例で、相続人が管理義務を負うことで過剰な負担を感じていたことが、改正のきっかけとなりました。

改正前は、相続放棄後も空き家や土地の管理責任を負うことで、相続人が困窮する事例が多数報告されていました。

民法改正は、相続放棄後の管理義務を軽減し、相続人の負担を減らすために行われたものです。



相続放棄後の管理義務の変更点

旧法における管理義務

旧法では、相続放棄後も相続人は財産を適切に管理する義務を負っていました。

民法第918条に基づき、相続放棄後も相続人は自分が財産を管理するのと同じ注意をもって管理しなければならないとされていたのです。

旧法では、相続放棄後も相続人が財産を管理する義務を負うことが定められていました。


相続放棄後に管理義務を負う期間

旧法では、相続放棄後も他の相続人や相続財産管理人が管理を引き継ぐまでの期間、相続人が管理義務を負いました。

相続放棄後にすぐに他の相続人が管理を開始できない場合、その間は放棄した相続人が管理を続ける必要がありました。

旧法では、相続放棄後も相続人が一定期間、管理義務を負うことが義務付けられていたのです。

改正法による管理義務の具体的な変更点

民法の改正により相続放棄者の管理義務・責任と期間が明確化されました。
【令和3(2021)年に民法の改正が行われ、令和5(2023)年4月から施行】

相続放棄者は、
  • 相続の放棄の時に現に占有している相続財産について

  • 他の相続人(法定相続人全員が放棄した場合は、相続財産の清算人)に対して当該財産を引き渡すまでの間

  • その財産を自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならない


    改正後 民法第940条には、相続放棄をした者でも、相続財産の「現に占有している者」として一定の義務を負う場合があると規定されています。
    これは、相続財産の混乱を避け、他の相続人や第三者に対する不利益を防ぐためです。


    現に占有している場合」の管理義務

    改正法では、「現に占有している場合」のみ管理義務が発生するようになりました。

    これにより、相続放棄後の管理義務=保存義務は「現に占有している」以外の放棄人には負わなくて良くなったのです。

    相続放棄した後もその財産に居住している場合等は「現に占有している場合」に該当するため、その財産の管理義務が発生するように変更されました。

    ※民法改正により、「管理義務」から「保存義務」への呼称が変更されました。

    「現に占有している」者とは

    現に占有している」者の表現が意味するところは、相続財産を物理的に占有している者、あるいはその財産を管理している者を指します。

    恐らくここが皆さん一番知りたかった部分のはず!

    具体的には、以下のような人々が該当する可能性があります。

  • 被相続人と同居していた相続人:例えば、被相続人(故人)と一緒に住んでいた子供や配偶者などは、その家や家財道具などを占有していると見なされることがあります。

  • 被相続人の住居に住んでいる人:たとえ相続人でなくとも、被相続人の家に住んでいる場合、その家や家財道具を物理的に占有しているとされることがあります。

  • 被相続人の財産を管理していた者:被相続人が所有していた不動産や動産を管理していた者(例えば、管理人や保管者)も、「現に占有している者」に該当することがあります。

  • 相続財産の清算人が必要な場合

    相続人が全員相続放棄した場合は、相続財産の清算人に引き渡すまで管理義務=保存義務が残ります。

    つまり相続財産の清算人が決まらなければ、最後に相続放棄した人に管理義務が残るのです。

    この点は要注意で、相続放棄をする場合は、できれば相続人全員で相続放棄をし、相続財産の清算人を選任する手続きをするのが良いと考えられます。

    様々な理由で、相続人全員で相続放棄とはいかないかもしれませんが、相続放棄が可能な期間(知った時から3か月)を過ぎてしまっては元も子もありませんし、誰か一人に責任を押し付ける形も、あまりよくないと思いますので、できる限り速やかに全員でするべきでしょう。

    この点は、相続のプロである行政書士や司法書士、弁護士等に相談する事がベターだと思います。

    相続放棄と管理義務について まとめ


    旧法における管理義務
  • 相続放棄後も相続人は財産を適切に管理する義務を負っていた。

  • 他の相続人や相続財産管理人が管理を引き継ぐまでの間、管理義務が続いた。


  • 改正法による管理義務の変更点
  • 「現に占有している場合」のみ管理義務が発生するように変更。

  • 「管理義務」から「保存義務」への呼称変更。

  • 被相続人と同居していた相続人や財産を管理していた者が「現に占有している者」に該当。


  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です